「経理業務を効率化するために、新しいクラウド会計ソフトを導入しよう!」 あなたがそう決意したとき、社内からこんな声が聞こえてくるかもしれません。
「今のやり方で何十年も問題なかった」 「新しいシステムなんて、難しくて覚えられない」 「かえって面倒になるんじゃないの?」
特に、長年会社の経理を支えてきてくれたベテラン社員の方から、このような「抵抗」を受けるケースは、DX推進において非常によくある「最大の壁」です。
しかし、この抵抗は悪意から来るものではありません。その多くは、「変化への不安」や「新しいことへの戸惑い」から来ています。
無理やり進めれば社内に溝が生まれ、かといって諦めれば会社の非効率は温存されてしまう…。 今回は、このデリケートな問題を解決し、ベテラン社員の方にも「賛成」してもらうための、具体的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1:原因を分析する ― なぜ彼ら(彼女ら)は反対するのか?
説得の前に、まずは相手の心理を理解しましょう。ベテラン社員が反対する主な理由は、大きく分けて以下の3つです。
- 「今のやり方」への誇り(プライド): 長年かけて築き上げ、最適化してきた現在の業務フローに強い誇りを持っています。「新しいシステム=今までの自分のやり方の否定」と捉えてしまうことがあります。
 - 「未知」への不安: 新しいツールをゼロから覚えることへの純粋な不安です。「自分だけ使えなかったらどうしよう」「若い人のように使いこなせないのでは」という恐れがあります。
 - 「仕事を奪われる」という恐怖: 「システムが自動化されたら、自分の仕事がなくなってしまうのではないか」という、自身の存在価値(アイデンティティ)への不安を無意識に感じているケースもあります。
 
ステップ2:感情論ではなく「メリット」を具体的に提示する
相手の心理が理解できたら、いよいよ説得のステップです。 ここで絶対にやってはいけないのが、「DXは時代の流れですから」といった抽象的な正論や、「便利になりますよ」という曖昧な言葉だけで押し切ろうとすることです。
重要なのは、「あなた」を主語にした、具体的で個人的なメリットを提示することです。
- NG例: 「会社全体として、業務効率が20%アップします」
 - OK例: 「〇〇さんが毎月3時間かけていた、Excelでの集計作業が、ボタン一つで10秒で終わるようになります。空いた時間で、別の重要な業務(例:資金繰り分析など)に集中できます」
 - NG例: 「このシステムは多機能で便利ですよ」
 - OK例: 「〇〇さんが一番面倒だとおっしゃっていた、領収書の糊付けやファイリング作業が、スマホで撮影するだけで完了するようになります」
 
このように、「今、あなたが感じている面倒な作業」が「いかに楽になるか」を具体的に示すことで、「敵」に見えていた新しいシステムが、徐々に「味方(相棒)」に見えてきます。
ステップ3:丁寧な導入計画で「不安」を取り除く
「メリットは分かったけど、本当に使いこなせるか不安…」という最後の壁を取り除くために、導入計画を丁寧に立て、それを共有することが不可欠です。
- スモールスタートを徹底する いきなり全ての業務を新システムに切り替えるのは無謀です。まずは「経費精算だけ」「請求書発行だけ」というように、影響範囲の小さい一部の業務からテスト導入しましょう。小さな成功体験を積んでもらうことが自信に繋がります。
 - 操作研修会を必ず開催する 「マニュアルを渡したので読んでおいてください」は最悪です。導入するツールのベンダー(販売元)にも協力してもらい、参加型の操作研修会を必ず開催しましょう。その場で質問を受け付け、一緒に操作することで、「わからない」という不安を「わかった」に変えていきます。
 - 社内に「推進リーダー」を立てる 導入後、現場からの小さな質問やトラブルにすぐ対応できる「推進リーダー」(あるいは佐久間さんのような外部サポーター)を明確にしておくことも重要です。「聞ける人」がいる安心感が、定着を後押しします。
 
まとめ:DXは「全員」で進めるもの
経理DXは、特定の誰かが使うためのものではなく、会社全体がより良くなるために行うものです。 ベテラン社員が持つ長年の経験や知見は、本来、会社の宝です。その宝を、新しいシステムという「武器」と組み合わせることで、会社のバックオフィスは最強になります。
「変える」ことを恐れるのではなく、「どうすれば一緒に変わっていけるか」を考える。 その丁寧なコミュニケーションこそが、経理DXを成功に導く最大の鍵なのです。

  
  
  
  

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