「この業務は、〇〇さんしか分かりません」 「〇〇さんが風邪で休んだら、請求書の発行が止まります」
多くの中小企業で耳にする、この「属人化」という言葉。 現場では「マニュアルを作る時間がない」「教えるより自分でやったほうが早い」という理由で、放置されがちです。
しかし、私が現在勉強している中小企業診断士の理論(ナレッジマネジメント)において、これは「組織の知識創造プロセスが止まっている危険な状態」と定義されます。
今回は、野中郁次郎氏らが提唱した有名な理論「SECI(セキ)モデル」を使って、なぜあなたの会社でノウハウが共有されないのか、そしてどうすれば「個人の知恵」を「会社の資産」に変えられるのかを解説します。
1. そもそも「SECIモデル」とは?
SECIモデルとは、個人の知識が組織全体に広がり、新たな知識が生み出されるプロセスを4つの段階で示したものです。
- Socialization(共同化):共感する
- Externalization(表出化):言葉にする
- Combination(連結化):組み合わせる
- Internalization(内面化):血肉にする
多くの日本企業、特に中小企業は、この最初の「S(共同化)」だけで止まっていることが多いのです。
2. 昭和の教え方は「S(共同化)」止まり
S(共同化)とは、言葉にならない知識(暗黙知)を、経験の共有によって移転することです。
- 「先輩の背中を見て覚える」
- 「飲みニケーションで仕事の極意を聞く」
- 「阿吽(あうん)の呼吸」
これらは全て「S」です。 もちろん大切ですが、これには致命的な弱点があります。それは、「その場に一緒にいないと伝わらない」ということ。
テレワーク時代や、人材の流動が激しい現代において、「背中を見て覚えろ」というスタイルは通用しません。ベテランが退職した瞬間、その知識(暗黙知)は会社から消滅します。
3. 経理DXの正体は「E(表出化)」である
そこで重要になるのが、次のステップ「E(表出化)」です。 これは、頭の中にあるモヤモヤしたコツ(暗黙知)を、言葉や図(形式知)にして吐き出す作業です。
実は、私が普段実施している「マニュアル作成」や「業務動画の制作」は、単なる事務作業ではありません。 経営学的に言えば、「熟練者の暗黙知を形式知に変える(Eのプロセス)」という、極めて重要な経営活動なのです。
- 暗黙知: 「この画面が出たら、なんとなくこっちをクリックする(勘)」
- 形式知: 「エラーコード503が出た場合は、再読み込みボタンを押す(ルール)」
ここまで落とし込んで初めて、その知識は「誰でも使える資産」になります。
4. 文章が苦手なら「動画」でいい
「表出化(マニュアル作り)が大事なのは分かるけど、文章を書くのが苦手で…」 そう言って挫折する方がほとんどです。
だからこその「動画」です。 SECIモデルを現代版にアップデートするなら、無理に文章にする必要はありません。
- ZoomやMeetで画面録画を回す。
- ベテラン社員がブツブツ言いながら作業する様子を撮る。
- それをAIで文字起こしする。
これだけで、立派な「E(表出化)」が完了します。 綺麗なマニュアルを作るのが目的ではありません。「頭の中の情報を外に出すこと」が目的なのです。
まとめ:知識のスパイラルを回せ
SECIモデルは、スパイラル(螺旋)のように上昇していくと言われています。
- S: 現場で一緒に汗をかく。
- E: コツを動画やマニュアルに残す。
- C: それを整理して体系化する。
- I: 新人がそれを見て学び、また新しいコツを見つける。
あなたの会社は、最初の「S」で止まっていませんか? 「あの人しか知らない」を放置することは、会社のリスクそのものです。
まずはスマホのカメラで、ベテランの手元を撮影することから始めてみませんか? それが、最強の組織を作る第一歩になります。
「ノウハウを残したいけれど、忙しくてマニュアルが作れない」「動画活用を支援してほしい」という企業様は、『経理の健康診断』へご相談ください。業務の棚卸しから形式知化まで、丸ごとサポートします。



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